2010年02月14日

Bizet “Carmen”MET 1954.4.3 Live

Georges Bizet “Carmen”

Carmen : Rise Stevens
Don Jose : Richard Tucker
Escamillo : Frank Guarrera
Micaela : Victoria de los Angeles
Frasquita : Heidi Krall
Mercedes : Margaret Roggero
Zuniga : Osie Hawkins
Morales : Clifford Harvuot
Le Dancaire : George Cehanovsky
Le Remendado : Alessio De Paolis
Orchestra and Chorus of the Metropolitan Opera House
Conductor : Tibor Kozma
New York,1954.4.3
(Gala)

ビクトリア・デ・ロス・アンヘレスは『カルメン』では本来ミカエラを持ち役にしており、ビーチャム指揮の録音で初めてカルメンを歌った。彼女が実演でカルメンを歌ったのは1978年、ニュージャーシー州立歌劇場での公演。彼女自身はすでにオペラからは遠ざかっていた頃のことだった。
数年前、ビクトリアが『カルメン』第三幕のミカエラのアリア‘Je dis que rien m’epouvante’を歌うライヴの音源を聴く機会があり、強い感銘を受けた。ぜひ他の部分も聴きたい、と願っていたところ、2007年についに出たのがこのCD。
聴く前に想像していたどおり、ビクトリアはその軽やかで清楚な歌声で、無垢な村娘ミカエラを自然に描き出している。おぼこで可憐で心優しくてか弱い、しかし芯の強いミカエラ。カルメンと比較すると魅力に欠けるこの役だが、ビクトリアのミカエラは(しばしばこの役について指摘されるような)女のずるさや表面的なきれいごととは離れ、心からドン・ホセを想い心配する純真な少女になっている。このミカエラは、本当にドン・ホセとは兄妹のような間柄で成長したのだろう。カルメンが何者にもとらわれない色鮮やかな野の鳥だとすると、ビクトリアのミカエラは、質素ながら愛のある環境で育てられた真っ白な小さな小鳥のようである。はまり役だったのではないか、という予想は裏切られなかった。適性という点ではカルメンよりもやはりこちらだったろう、と思う。
この時代のMETの無二のカルメンとも呼ぶべきリーゼ・スティーヴンス(第1幕の登場でさっそく鳴り響く喝采と歓声から、彼女のカルメンの人気がうかがえる)の歌声は、カルメンとしては重過ぎず軽過ぎず、もてる女の香気と官能性を充分に含んでいる。ドスを利かせる部分でも決して下品にはならず、野性的な色気と若い女らしい魅力の双方を両立させたカルメンである。美貌で知られた彼女の演唱を観ることができないのは残念だが、一代のカルメン歌いの実力に触れることができる。ドン・ホセを歌うリチャード・タッカーは役になりきり、時に激しく(第2幕でカルメンの「妬いてくれないなら死んじゃう」の詞の前後の反応の鋭さから、この男がきわめて嫉妬深いことが観客にははっきりと伝わったはずだ)、時には「泣き」も入れつつ、実にストレートにこの役の感情を歌い演じている。
全体的な演奏の感想をあえてひとことで言い表すとすると、「ラフ」。それは決して悪い意味だけではない。確かにコズマ率いるMETのオケにはやはりもう少し歌手たちを支えてほしいと思ったし、合唱ももう少し線を揃えてほしいと感じずにはいられなかった。また、第2幕の6重唱などでアンサンブルが崩れをみせるのにはがっくりきてしまった。しかし、この作品に必要な勢いや激しさ(たとえ端正でも、勢いと熱気を欠いた『カルメン』だなんて、ねえ!)、演奏者(歌手・指揮者・オーケストラ)と観客双方の良い意味でのリラックスした雰囲気など、プラスに作用している部分もあったと思える。
ライナーノートには、この時の最終幕の演出についても書かれている。カルメンとドン・ホセの修羅場は闘牛場の外ではなく、エスカミーリョとカルメンが泊まっているけばけばしいスウィート・ルームで行われるそうな。殺されるにあたりカルメンは相当抵抗したようで、きれぎれの断末魔が生々しい。あくまで個人的な好みを言わせていただくと、カルメンはじたばたせず潔く殺されてほしい。彼女はすでに死の覚悟を決めて、ドン・ホセと対峙しているはずだから。
posted by ぶらっくたいがあ(元ユルシュール) at 23:38| Comment(0) | TrackBack(0) | ビクトリア・デ・ロス・アンヘレス 録音 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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