2010年04月25日

2010.4.24 劇団四季『サウンド・オブ・ミュージック』(四季劇場・秋)

……結局、行ってしまいました。『サウンド・オブ・ミュージック』。
昨日のことです。4月24日昼の部、当日立ち見3階バルコニー席。2時間半近く立ちっぱなしでしたが、苦にはなりませんでした。

マリア:井上智恵
トラップ大佐:鈴木綜馬
修道院長:秋山知子
エルザ:坂本里咲
マックス:勅使瓦武志
シュミット:大橋伸予
フランツ:青山裕次
シスター・ベルテ:佐和由梨
シスター・マルガレッタ:矢野侑子
シスター・ソフィア:あべゆき
ロルフ:飯田達郎
リーズル:谷口あかり
フリードリッヒ:笠原知也
ルイーザ:今井利奈
クルト:川原一輝
ブリギッタ:石井日菜
マルタ:内田花音
グレーテル:平井花奈
平田英夫指揮

今回の舞台の感想はやたら長くなってしまい、演出などに関して感じたことはカットすることにしました。カット部分は近いうちにアップできればと思います。どちらにせよ、長いとはいえ内容の薄い感想であることは確かです……。

四季劇場・秋での観劇は初めてでしたが、決してだだっ広くない、舞台と客席の距離が近く感じられる劇場でした。客席も良い意味でリラックスした雰囲気で、場面によって笑いが起きたり鼻をすする音がしたり、と敏感に反応していました。演目と土曜昼という時間柄か、子供連れをわりと多く見かけたのですが、子供が声を挙げて舞台を邪魔するようなこともほとんどなかったです。
オペラグラスなしでも3階席最後列から俳優の表情が見えました。ただここからだと、舞台にアルプスを築きその上に大人の俳優が乗ると、肩から上が全く見えないのです。よりによって冒頭とラストシーン。トラップ夫妻の表情もおんぶされた末娘もまるっきり見えないというのに、ラストの余韻も何もあったものではありません。覚悟はできていたとはいえ、残念無念でした。


『サウンド・オブ・ミュージック』は、ミュージカルのクラシック作品といっても過言ではない、と思います。
脚本には(今回のヴァージョンでは多少改変が入っているそうですが、それでもなお)細部の詰めが甘いというべきか、物足りなさを覚えるのは否めません。ミュージカル嫌いが鼻で笑いそうな、「いかにもミュージカルらしい」、ご都合主義を通り越し超展開と呼びたくなるシーンも見受けられます。白状すると私も、鑑賞しながら心の中で突っ込みを入れたシーンがひとつやふたつではありませんでした。これは映画版でも同じです。
しかし、この作品が今に至るまで名作ミュージカルとして生き残り、幅広い世代に愛されているのは、それこそ作品の底力――音楽の素晴らしさにほかならない。この作品の威力を実感することができた公演でした。
それはすなわち、作品の素晴らしさを充分に伝え得るだけの力量ある俳優・プロダクションに恵まれたということでもありましょう。ミュージカルに限らず、舞台芸術においては、名作と呼ばれる作品は誰がやっても素晴らしいから名作なのではなく、実力と天分に恵まれたキャスト・スタッフが手がけてこそ、その真価が正しく伝わるのではないでしょうか。

舞台は2幕構成でした。映画版ではマリアが主人公で相手役がトラップ大佐、というスタンスで通していましたが、今回の舞台では第1幕の主人公はマリア、第2幕の主人公は大佐なのかな、という印象を受けました。
第1幕は従来どおり、はみだし見習い修道女マリアが新たな世界=トラップ家に飛び込み、一家と心を通わせ、やがて恋を知って動揺するも修道院長に励まされ自分の心に向き合う、冒険と成長の物語。第2幕は、生真面目な硬骨漢かつ愛情深い家長であり、多くの美点を持ちながらも完璧な人間というわけではない大佐が、困難な状況下、妻子や友人知人に支えられて己の道を歩もうとする物語。そのように見えたのです。
冒頭、井上智恵扮するマリアが‘Sound of Musik’を歌い始めた時、その声が若き日の野村玲子の歌声(1980年代、『オペラ座の怪人』や『CATS』の録音などで聴いた声)に似ているように感じましたが、すぐに彼女の歌の個性を感じることができました。深みと温かさの備わったふくよかな歌声で、終始安定感に満ちた、素晴らしい歌唱。
その歌声・演技・存在感からは、しっかり地に足をつけ、他者を支え共に歩いてゆく女性像が浮かび上がりました。おっちょこちょいでドジだけれども度量が広く、ユーモアと思いやりにあふれ、敬虔で自分をしっかり持った、どこまでも愛溢れる理想的なマリア先生でありお母さまでありトラップ夫人でした。また、あの台詞を言うには不自然きわまりない発声法のもとでも、彼女はなかなかナチュラルに台詞を発していたのも好もしかったです。
芥川英司時代を録音でしか知らない身としては、劇団四季の舞台で観られるとは思いも寄らなかった鈴木綜馬が演じるトラップ大佐は、期待どおり適役。彼は「ソフトなクールさ」と呼ぶべきか、柔らかさとシャープさが混じり合った雰囲気の持ち主で、ノーブルで端正なたたずまいともども、毅然とした態度の下に愛と優しさのにじみ出るこの役にぴったりはまっていました。年頃の娘がいてもおかしくない、しかしロマンスの主人公としてもまだまだ充分ふさわしい、男盛りのハンサムなやもめ軍人貴族。結婚式のシーン、マリアの華麗なウェディング・ドレス姿のみならず、ネイビーブルーの軍服姿で凛々しく決めた大佐にも目を奪われた女性客は私だけではないと信じております。
そして何より、歌声もぴったりです。気品と厚みのある、しかし決して重くならない温かいハイ・バリトンで歌われる‘Sound of Music’や‘Something Good ’や‘Edelweiss’には、「そうだ、こういう声で聴きたかったんだ!」と嬉しくなってしまいました。

子供たちも、みな良く頑張って、素敵な歌を聴かせてくれました。みんな立派でした! 長女リーズル役の谷口あかりは歌声もなかなか可憐だった上、動きが実にしなやかで美しく、バレエの素養のある人だなと感じたのですが、実際バレリーナとして活躍してから劇団四季に入った人とのこと。秋山知子の修道院長はオペラティックな歌声で、第1幕ラストの‘Climb Every Mountain ’では決して広くない劇場の壁が震えるほどの熱唱でした。あの時代のオーストリア美女らしい衣装とブロンドの鬘を違和感なく着こなしかぶりこなし、優雅でタフな貴婦人を好演した坂本里咲のエルザ(大佐の婚約者の名前を今回初めて知りました)、照れのない堂々たるコメディアンぶりと大人の男の懐の深さをしっかり両立させていた勅使瓦武志のマックス(時流に下手に逆らわずのらりくらりと生き延びるべきと主張し続けながらも最後に友情を取ってしまった彼のその後が非常に気になったのも、ラストの余韻どころではなくなった理由であります)。特にいいなと思ったのはロルフを演じた飯田達郎。少年から青年になろうとする年代の男の子といった雰囲気をきちんと出せていたことはもちろん、劇団四季独特の歌唱ながら歌い回しがやわらかくナチュラルで、耳に心地よかったです。

独特の歌唱法で思い出しました。劇団四季独自の発声法は、日本語歌唱には確かに良い効果をもたらしているかもしれない、と今回の公演では感じることができました。旋律への乗せやすさと言葉の聞き取りやすさとが両立されているように感じられたのです。一方、その発声法を生かしているらしい台詞回しには未だにぎょっとさせられます。人によってはすさまじい棒読みに聞こえてしまう不自然さ。俳優の責任というよりは発声法の問題のように感じられてなりません。どうやらオーディションで選ばれた子役たちにも徹底させているようで、子供たちにはそのまま台詞を言わせる方がよほど良いのに、と思いました。ただ、この台詞回しにも舞台が進むにつれて慣れましたが……。

第1幕の半ば、マリアの教育ぶりにはじめ憤慨していた大佐が考えを改めるくだりは、今回の公演のハイライトでした。子供たちを愛してあげて下さいと訴えるマリアに向かって、君にうちの子供の何が分かるというんだ、出てゆけ! と言い放った大佐の耳に、子供たちの歌声(‘Sound of Music’)が聴こえてくる。振り向き、ぼうぜんと彼らを見つめる彼が、何かに導かれるように歌い出す――「登場人物の感情の動き・心理ドラマは音楽(と踊り)で表現される」というミュージカル文法に正しく則って描かれるこのシーンは、まさにこの作品の――ミュージカルという芸術の本質の凝縮であることに気づきました。この歌には、音楽には、より詳細な説明や展開を省いても何ら問題のない、ご都合主義とか超展開とかいった突っ込みを黙らせる力がある。ああ、こうしてここでこの父親は子供たちと再び心を通わせ合うに至ったのだな、と理解させるにありあまる表現であり、つい数分前までマリアを否定していた大佐が、「君は我が家に歌を取り戻してくれた。どうかこれからも我が家にいてくれないか」と言い出すことも素直に納得できる、最大の“説明”なのです。
歌のあと、子供たちが父親に次々と抱きつく間、台詞らしい台詞もなくオーケストラが静かにリフレインします。この時、客席は水を打ったように静まりかえり、方々からすすり泣きのような音が聞こえました。私も、打ちのめされていました。この瞬間に立ち会えただけでも良かった――まさにこの作品のタイトルそのまま、「音楽の響き」の力を思い知った瞬間でした。
posted by ぶらっくたいがあ(元ユルシュール) at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 舞台鑑賞(ミュージカル) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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