2010年07月16日

2010.7.6 劇団四季『サウンド・オブ・ミュージック』(四季劇場・秋)

2階6列中央。

マリア:井上智恵
トラップ大佐:芝清道
修道院長:秋山知子
エルザ:西田有希
マックス:勅使瓦武志
シュミット:大橋伸予
フランツ:川地啓友
シスター・ベルテ:佐和由梨
シスター・マルガレッタ:矢野侑子
シスター・ソフィア:あべゆき
ロルフ:岸佳宏
リーズル:谷口あかり
フリードリッヒ:鳴戸嘉紀
ルイーザ:今井利奈
クルト:川原一輝
ブリギッタ:片岡芽衣
マルタ:鈴木アリサ
グレーテル:平井花奈
平田英夫指揮

 友人と一緒に観に行きました。


 この作品のソワレ観劇は初めて。マチネだった前2回の観劇時よりも、どうも性急にさらさらと舞台が展開してゆくような気がした。マチネでは充分に間をとって演技したり台詞を発していたはずのところが、今回はみな時間に追われるように舞台を進めているように感じられた。第1幕のクライマックスのはずの‘Sound of Music’(Rep)後の抱擁も、第2幕前半の台詞の応酬も、とにかく急いている。結果、余韻が薄くなってしまったように思われてならなかった。(実際、ソワレは21時終演を義務としているため、マチネよりも急いで舞台を進めているようだ、と後でうかがった。充分考えられることではあるが、そのような理由なのならば残念だ)
 そのせいかどうかは分からないが、客席のノリもいまひとつ良くなかった。特に第1幕、前回は大受けだった個所で笑いひとつ出ない、というのが1度や2度ではなく、戸惑ってしまった。もっとも、舞台が進むにつれて客席も徐々に温まってきたようで、第2幕では少しずつ笑いも出るようになって、こちらが安堵した。第1幕‘Maria’の最中で途中入場してくる方がいたり、その後も何か問題があったのか係員がライトを手に注意したり、また第2幕、客席のどこかで携帯のバイブ音がするなど、客席での小さなハプニングが気になる夜でもあった。舞台は水もの、客席も水もの、こういう日もあるのだろうが……。

 この日の子供たちは、ひとりひとりはしっかり歌えて演技もリラックスしていた。全体の演技も兄弟らしいまとまりがあったものの、声のアンサンブルとしてはいまひとつしっくりこない部分もみられた。声に関しては、ひとりひとりのレベルが高くとも良いアンサンブルになるとは決して限らないのが難しいところだ。ここぞ、という場面でミスが散見されたのは残念だ。この日はフリードリッヒとブリギッタとマルタが初見。一方、谷口あかりのリーズルと今井利奈のルイーザは3回連続で観たことになる。回を追うごとにツンデレ度も愛らしさもアップしていく谷口リーズルも、勝気で生意気だけど非常に家族思いな少女を見事に表現する今井ルイーザも、どちらも大好きだ。
 この3回の観劇、大人キャストで全く変わらなかったのはマリア、修道院長、マックス、3人のシスターといった面々だが、勅使瓦武志のマックスに関しては、もう他のキャストでのこの役が考えられないほどになってしまった。演劇ファンの友人が最も称賛していたのも彼であった。終演後、子役たちがカーテンコールに出られない理由を説明する彼は、ハイテンションでマックス役を演じている時とは違い、礼儀正しくちょっぴりシャイな雰囲気で、さらに好感度が上がった。
 秋山知子の修道院長は今回が一番声の調子が良かったように感じた。第1幕ラストの‘Climb Every Mountain’の、劇場じゅうの空気を震わせる声の威力はすさまじく、今回の舞台のハイライトだった。
 井上智恵のマリアはこの日も好調、安定しきった歌と演技を見せてくれた。観る&聴くたびに、この人に不調の時はあるのかと不思議になってしまう。ちょっと大人のマリアかもしれないが、私は好きだ。

 この日初めて観た大人キャストは、トラップ大佐とエルザとロルフ。
 トラップ大佐役を演じた芝清道については、豊かで強靭な声と鮮烈な個性に恵まれた、アクの強い役柄を得意とする役者、という認識を持っていた。前2回の観劇時のトラップ大佐だった鈴木綜馬とは全く違うタイプの俳優である。演技や役柄に対するアプローチも違ってくるだろうなあ、とは想像できたが、この役者の『エビータ』チェ役でのアナーキーな男臭さ全開の存在感や『CATS』ラム・タム・タガーの怪演が脳裏に焼き付いている身としては、いったいどのようなトラップ大佐になるのか、予測するのは正直難しかった。
 果たして芝大佐に対する私の第一印象は、「大人のトラップ大佐」だった。4月に初めてこの作品を観た時は、「トラップ大佐ってこんなにダメな人だったっけ?」と驚いたが、今回は「トラップ大佐ってこんなにしっかりした大人だったっけ?」と驚いた。舞台版『サウンド・オブ・ミュージック』の世界にも観賞3回にしてすっかり慣れてきたというのも大きいが、やはり一番の原因は役者の演技の違いだろう。
 修羅場をくぐってきた叩き上げの軍人という下地が、意識せずとも目つきや態度ににじみ出てしまう、まさに己の腕で現在の地位と財産を築き上げた退役軍人そのものといった雰囲気の芝大佐は、頑固で鈍感なきらいはあっても、きちんと理性的に“大人”のふるまいができる、年相応に成熟した男性に感じられた。その頑固さや鈍感さも、昔の家長らしい頑固さであったり、軍隊育ちらしい剛直さの反面に感じられ、彼自身の性格の問題にはあまり見えない。登場時も心を閉ざしているようには見えない。子供たちの扱いについても、彼なりに子供たちのことを一生懸命考え、心から良かれと思ってあのような教育方針を敷いたものの、現実とずれていることになかなか気づかなかった、というふうに見える。方法がおかしいのに気づかなかっただけで、現実にはきちんと向き合う姿勢を持っているように感じられたのだ。家庭のことであろうと政治のことであろうと、決して揺るがずぶれない、確固とした己を持った人物像に仕上がっていた。結婚相手としても一家の主としても、安心して頼れる男性である。だからこそそんな彼が、‘Edelweiss’で子供たちや妻に守られるのを感じ、泣き出しそうな表情になって歌うシーンでは一層胸を衝かれた。
 毅然とした姿勢を崩さぬまま、役の持つ性格的な弱さを、役を構成し舞台全体をも動かす重要なファクターとしてあますことなく表現していた鈴木大佐とは確かにアプローチが大きく異なっていたが、これはこれで魅力的な大佐であったと思う。この主役級の人物に観客が突っ込みを入れる隙を与えず素直に感情移入させるには、むしろ芝大佐のような役作りが有効かもしれないしオーソドックスですらあるかも、と感じた一方、一種の食い足りなさを覚えてしまったのも事実である。この役に関しては、作品全体のことを考えてももう少し「脆い」部分があってもいいと思わずにはいられなかったし、そう思うようになってしまった自分に本当に驚いた。
 歌については、あの強大な声を懸命にコントロールして子供たちやマリアとのハーモニーに、ロジャースの音楽に合わせようとしているのがうかがえた。立派な歌唱ではあったが、あたかも一流のヴァーグナー歌手がモーツァルトのオペラやシューベルトのリートを歌うのを聴いた時に覚えるような違和感をぬぐうことはできなかった。ハイレベルな演唱であっただけに余計に、「今回も良かったけど、この人はできればその声と個性を存分に生かせる役柄で観たい」というのが率直な思いである。

 エルザを演じた西田有希は劇団俳優座からの客演とのこと。その美しさは前2回のエルザであった坂本里咲に劣らない。そして、より世知に長けた、さばけた雰囲気の持ち主。会社経営も社交も積極的にこなしそうなタイプで、恋愛よりも自分のキャリアアップやステータスアップ、そしてプライドの方を大事にしそうに見え、素朴で無骨な大佐とは全く違う世界の住人であるということがはっきり分かる役作りだった。対する芝大佐も彼女を愛しているのではなくあくまで「今後結婚するかもしれない相手」として大切に扱っているという趣だったため、政治的見解の違いでこのふたりがあっさり別れてしまう(芝大佐が「本気でそう思っているのか?」と言った瞬間、彼が彼女に見切りをつけたのがはっきり分かってしまうような視線と演技だった)のが不自然に見えない。別れのシークエンスに流れる氷のような空気は、鈴木大佐と坂本エルザの別れにはなかったものだ。別れ際に大佐がエルザの手にキスするシーン、鈴木大佐の時に感じた「全く男という奴は!」といういらだちは芝大佐にはほとんど感じなかった。そこには甘さも未練もなく、どうしても相容れることはできなかったとはいえ、一時は結婚しようとまで考えた相手の女性に対する、男としての敬意と謝罪のあらわれに見えたのだ。屈辱と哀しみにかすかに震えつつも、冷然とすらいえる態度で彼との別れを決め去ってゆく西田エルザの後ろ姿は何ともほろ苦かった。
 岸佳宏のロルフは長身でハンサム、かっこいいお兄さん風の彼にリーズルが憧れたのも納得できる。第2幕、すっかりナチ青年となって登場した彼は冷淡というよりは陰鬱に沈んだ雰囲気で、彼自身リーズルとの仲が破綻してしまうことに苦しんでいる様子だったのが印象的だった。ラストの彼の悲痛な表情が忘れ難い。歌声が前2回の飯田達郎にそっくりに聴こえて驚いたが、もう少し低めで男らしい、こちらもなかなかの美声であった。

 この日は10数年来の友人と一緒の観劇。演劇好きの彼女と一緒にミュージカルを観るのは5年ぶりだったろうか。本当に幸せな時間だった。彼女が「楽しかった!」と言ってくれたのが、何より嬉しい。
posted by ぶらっくたいがあ(元ユルシュール) at 12:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 舞台鑑賞(ミュージカル) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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